34、これが最後なら*

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 ほんの数舜、意識を飛ばしていたらしい。ようやく戻ってきて、ぼんやりと薄暗い天井を眺めていると、真上から影がさして視界を覆う。――雅煕が髪を掻きあげながら、覗き込んだのだ。正面から見下ろす端麗な顔に、杏樹が陶然となる。 「杏樹?」  「まさ、ひろ……さん?」  雅煕が杏樹の髪を撫で、そのまま掌で頬を包み、唇を塞ぐ。舌が差し込まれ、咥内を蹂躙される。 「ふっ……んっ……」  唾液を吸い上げられ、舌を絡めとられて、唇が解放される。舌先が離れて互いの間に唾液の橋がかかり、それがライトの淡い光に光る。 「杏樹……()れていい?」 「ん……」  なんとなく視線を廻らして、ベッドサイドのチェストの上に避妊具の袋があるのを見て、杏樹はホッとする。気をやっている間にゴムをつけてくれている。雅煕の美しい素顔も好きだけれど、杏樹が一番好きなのは、彼の優しさと誠実さだ。  眼鏡を外してまともな服を着たら、瞬く間にモテまくって杏樹のことなど忘れてしまうのでは――  そう思うと、こうして彼に求められる幸せをもっと味わいたくて、杏樹は両手を伸ばして雅煕の頬を包む。
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