34、これが最後なら*

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「わたしも……雅煕さん、だけ……」 「ほんなら!」  杏樹がまだ整わない息の狭間で囁けば、雅煕が杏樹の顔の両側に手をついて、閉じ込めるようにして見下ろした。 「その変な御曹司やなくて、俺と結婚しよ。……ああもういっそ、見合いでけへんようにこのホテルに監禁しよか……」  そう、言った表情があまりに真剣で、杏樹はひっと息を飲む。 「雅、煕さん……」 「ほんで昼も夜もナマで種付けセックスして、孕まして俺から逃げられんようにしよか?」  「そんな……」  普段の穏やかさからは想像できない、独占欲を剥き出しにした雅煕に、杏樹が目を瞠った。数秒、見つめ合って、杏樹の怯えを察知した雅煕が、切なそうに眉尻を下げる。 「わかってる……俺かて家からは逃れられへん……杏樹が俺よりも家を取ると言うのを、責める資格はない……」 「雅煕さん……ごめんなさい」  雅煕が杏樹の中から抜け出して、後始末をしてゴミ箱に捨てる。 「謝る必要あらへん。……杏樹が悪いわけやないし」  起き上がった雅煕が、両手で前髪をかき上げる、その横顔を杏樹が見つめて、そしてもう一度謝った。
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