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決して自ら望んだものではないけれど、逃れられないさだめだと諦めとともに受け入れた未来。この時計は、その象徴。
「杏樹、見合いはいつ?」
「七月の頭」
「じゃあまだ、二週間もある。その御曹司も気が変わるかもしれへん。俺は諦めないから」
「雅煕さん?」
雅煕は腕時計を外し、杏樹の左腕に巻いた。夏の、細い素肌には、あまりに大きくブカブカだった。
「ダメよ、落としちゃうし……すごい高いんでしょ?」
気になって検索したから、この時計のとんでもない価格を、今では杏樹も知っている。
「これで最後なんて絶対に認めへん。次に会う時まで持っていて」
ためらう杏樹を押し切るように、雅煕はもう一度キスをした。
本邸から三崎の車を呼び出し、杏樹を京都駅まで送らせて、雅煕が精算のためにフロントまで戻ってくると、そこには叔父・晴久が待ち構えていた。
「……叔父さん?」
「大事な話があんのや。ちと、顔貸せや。――さっきまでいた十六階のスイートルームでも行こか?」
「なんやの、いったい……」
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