35、叔父と甥

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「二十歳になる前は、けっこう、頻繁にスカウトが来たらしいで。おばあちゃんが全部拒否したって。……てなんで知ってんの?」 「お前の女の名前くらい、把握しとるわ」  晴久が自分で冷蔵庫を開け、ビールのロング缶を取り出す。ミニバーのグラスを二つ並べ、ぷしゅっとプルタブを開けて黄金色の液体を注ぎ分ける。 「まだ朝の九時前やで? 今からビール?」 「こんなん水代わりや」  ソファに座った雅煕の前に、ビールのグラスが置かれる。向かい側に、グラスを持った叔父・晴久が腰を下ろし、ぐびぐびと飲んだ。雅煕も肩を竦め、仕方なく一口飲む。 「はー! しかし、やっとお前も女を知ったか。三十まで童貞貫いて、魔法使いでも目指す気かと本気で心配したわ」  晴久がぐびっともう一口飲む。 「どういう心境の変化や。十八歳から四年も婚約してた相手には手ぇ出さずに、あの子とは、パリで会ったその日にエッチとか。ま、あの子の方が美人やけど」 「会ったその日やない。処女くれる、って言うたくせに、時差ボケと疲労で寝落ちされてん、俺」 「……ほんまに処女やったん? あの別嬪(ベッピン)が?」
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