35、叔父と甥

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「ばあさん、なんや渋ってはったらしいが、最後には折れた。それで、その夜のうちに大貫(おおぬき)のじいさんが秘書を派遣して、北川家に縁談の打診をしてる」 「ちょっと待って、それってつまり――」  身を乗り出す雅煕を手で制して、晴久が言う。 「昨夜の、食事の時の会話、聞かせてもろうたんや。なに、彼女が何者かわからへんかったしな」   「ええ……ということは……」 「あのお嬢さんが結婚させられそうになってる、マザコンでインポの御曹司は、お前のことや」       額の真ん中を指差されて、雅煕が呆然とする。 「……やっぱそうやんな! おかしい思ったわ、そんなデカい財閥の御曹司で、未婚でさらに一度婚約破棄してんのが、日本にもう一人おるなんて(うせ)やろ思たわ。……でもマザコンでインポって何? たしかにパリでオカンのバッグ買いに行かされたけど、インポはないやろ、直前まで彼女とヤってたのに!」 「そこや!」  晴久もソファに背中をあずけ、脚を組みなおす。
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