36、美奈子の企み

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 記事は五月の和泉家本家の茶会で、次期当主がグループ内に周知された、というもの。美奈子の目は記事の内容をすっ飛ばし、「次期当主に内定した和泉家の御曹司」の写真に釘付けになる。  高級そうな三つ揃いのスーツを着た背の高い男。前髪を綺麗に撫で上げて秀でた額をさらし、切れ長の涼やかな目をした素晴らしい美男子だった。 「ウソ、これが和泉家の御曹司?」    国内最大の財閥の跡継ぎで、北川家も足元に及ばない大金持ち。室町時代から続く名家で、この美貌。   「マザコンでインポでも、全然っいいじゃん!」  スマホの画面を拡大しながら、美奈子が叫ぶ。  これが杏樹の相手? ウソでしょ。どうしていつもいつも杏樹ばっかり、ズルい――  あたしだって北川家の娘で、現当主の直系なのに!  しかも杏樹はこの縁談に明らかに乗り気じゃない。パリで会ったダサ眼鏡にいまだに未練タラタラだ。         ――なんとかして杏樹を追い出して、あたしが会場に行けば――  美奈子はたいしてよくもない頭脳を総動員して、策略を廻らし始めた。 「え? 関西弁? そら喋れるけど。というか、関西弁しか喋られへんわ」
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