36、美奈子の企み

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 渋谷のスタンディング・バーで、美奈子はようやく、目指す男に辿りつく。関西から東京の大学に出てきたばかりのチャラい大学生。タダでヤれる女を探していて、昼間でも暇そうな男。――何しろ、見合いは平日の昼に設定されているのだ。御曹司、暇すぎない? 「あたし、関西弁で口説かれてみたいのよね。……それとお願いがあるの。上手くすれば、アイドルレベルの女とヤらしてあげられるわ」  丸テーブルに寄りかかり、美奈子がスマホの写真を見せれば、男がヒュウと口笛を吹いた。     「ウソ、まじで? この子とヤらしてくれんの?」 「その代わり――」          とうとう、見合いの当日がやってきた。  場所は、北川興産の創業者、北川総一郎が集めたコレクションを所蔵、展示する龍園齋美術館の、庭園内の茶室。  美術館は現在、展示替えのために休館期間で観客はいない。祖母の苑子が亭主となり、和泉四郎左衛門を正客に迎えて、正午の茶事を催し、御曹司と杏樹が連客となる、というもの。 「この暑い時期に振袖なんて……」 「クーラーは効いているから大丈夫よ」
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