36、美奈子の企み

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 関西弁の男の声に、杏樹がドキリとする。 「もしもし? え……もしかして、雅煕さん?」 「せや、マサヒロや。なあ、お見合いなんかやめて、オレのとこ来てよ」 「え、……でも……なんか、声、おかしくない? 固定電話だから?」 「アンジュにフラれると思たら一晩泣いて、声、嗄れてしまったわ。……来てくれへんかったら、オレ自殺するかも」 「ええ? ちょっと待って! 自殺って!」  冷静に考えれば不自然極まりない。でも、関西弁で、杏樹が見合いすると知っていること、そして自殺を匂わせる発言に、杏樹はすっかり騙され、雅煕だと思いこんでしまった。 「ねえ、自殺って……そんな……、今、どこにいるの?」  「アンジュに逢いに東京まで出て来てん。東京サクラホテルにいる。1203号室。今すぐ来て。直接上がってきたらええから」 「今すぐ行くから、雅煕さん、早まらないで!」  半泣きになって電話を切り、バッグを掴んで草履をつっかけ、玄関を出る。ちょうど、呼んでおいたタクシーが門前に来ていた。   「龍園齋美術館ですね?」 「あ、あの、変更してください! 東京サクラホテルに!」 「え、でも、よろしいんですか?」
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