2332人が本棚に入れています
本棚に追加
38、杏樹危機一髪
叔父からの電話によれば、杏樹は見合い会場でなくて、サクラホテルにいる。そして見合い会場にはなぜか――
「ええと、なんで杏樹じゃなくて、君が――杏樹の、イトコやったっけ? ――なんで君が来てんの?」
雅煕が冷静に告げれば、美奈子はその関西弁に驚いて、まじまじと雅煕を見た。
「え?」
「さっきなんて言うた? パリで会った、ダサ眼鏡の桜井に逢いに行ってるって?」
美奈子が慌ててうんうん、と頷いた。
「あの子、パリでダサい眼鏡の桜井って金持ちの男と恋仲になったんです。日本に帰ってきても忘れられなかったのか、男の声でホテルから呼び出しが来たら、見合いも捨ててすっ飛んでいって――」
「桜井が杏樹を呼び出すわけないやん! 男の声でホテルに呼び出し?」
雅煕は胸ポケットに入れておいた太い黒縁の眼鏡を取り出してかける。
「あああ! あの時の桜井?! あんたが和泉財閥の御曹司なの? 嘘よ! だって――」
「苗字が違うんは、外孫だからや。……外孫って言うてもわからなそうやな。母方の祖父だから苗字がちゃうねん!……て杏樹は無事なんか? 今すぐ俺も――」
最初のコメントを投稿しよう!