3、オテル・ド・ロンシャン

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 祖母の厚かましい申し出に杏樹がためらうが、桜井が頷いて電話を代わる。 「もしもし、桜井と申します。いえ、こちらこそ、とんでもないです。困ったときはお互い様やさかい」  桜井の関西弁のイントネーションは、東京で聞くお笑い芸人のそれとどこか違って、なんとなくのんびりとして品がよく聞こえる。 「ええ、ええ、わかります。それは、そうですね、もちろんです。……ええ、構いません。……僕? 僕は学生です。今回は学会で――はい。はい。ええ、そうしてください。ほな、失礼します――」 「おばあちゃま、なんて?」  電話を切って、何やら登録している桜井に、杏樹がこわごわ尋ねる。桜井が苦笑して言った。 「僕が若い男なんで心配なんやろう。あと、急な時はこのスマホに連絡してもいいかって言わはるから、もちろんって返しておいたで」 「すいません、祖母までご迷惑を――」 「そら、しゃーないわ。さ、まずタイツを換えなあかんやろ? あと、腹も減ったし。僕、先に下のレストランに降りてるから、履き替えておいで」 「は、はい。すいません! すぐに着替えて行きます!」
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