38、杏樹危機一髪

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「はい!……雅煕か! 今から向かう? 今どこおんねん? 車? わかった、だが一刻を争うよって、俺たちは先に行くで。1203号室、十二階や! 後から来い、ええな?」    晴久がスマホを切ると、支配人がお詫びのワインを載せたワゴンを用意してきた。 「制服の奴の方がええな。……お前と、支配人、あと女性も一人来てくれ。フロント! もうすぐ、ここにが来るから、案内して上に連れて来い!」  「了解(ラジャー)!」        杏樹は何が起きたのか全然、理解できなかった。  十二階のフロアはかなり広くて、隅の方にある1203号室はなかなか見つからない。ようやくを見つけて、ドアベルを鳴らした。 「はーい!」  意外と暢気な返事に、後から思えば変だと思う。でもその時は夢中だった。 「雅煕さん? 雅煕さんなの? わたし! 杏樹です!」  ドンドンとドアを叩けば、カチャリと鍵を外す音がしてうち開きのドアが開く。吸い込まれるようにふらついて一歩踏み込んだ杏樹の二の腕を強引に掴まれ、部屋に引き込まれて扉が閉まり、ガチャっとロックがかかる。     「雅煕さ……」
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