39、救出

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「いえいえ、そう、おっしゃらずに。こちらのワイン、サービスでご提供させていただきます。ブルゴーニュ産のピノノワール種でございまして、すっきりとした飲み口が――」 「ああ、もううっせえええ!」  その隙にドアの隙間から覗き込んだ女性社員が晴久に囁く。 「草履と、着物用のバッグが見えます! このお部屋にいます! 警察呼びますか!?」  女性社員がスマホを手に尋ねる。――この部屋に囚われているとしたら、犯罪だ。だが――  ホテルの個室に誘拐監禁されたことが警察沙汰になれば、上流階級に噂が回ってしまう。 「未来のお内儀様は我々で救出する! 突入するぞ!」  晴久の号令に、ガタイのいいドアマンが頷いて半開きのドアに体当たりする。そのタイミングで、こじ開けたドアの隙間に、支配人が強引にワゴンを室内に押し込んだ。立ちはだかっていた男にワゴンがぶつかり、ワインの瓶が転がってガシャーンと音を立て、男が押しのけられる。 「うわっ、客に向かって何すんねん! 警察呼ぶぞ!」   晴久が床に転がった草履を拾い、女性社員がバッグを拾いあげる。 「この部屋に着物のお嬢さんがいてるはずや!」  
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