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晴久が叫び、部屋を見回せば、ベッドの上に不自然な盛り上がりができて、それが芋虫のようにもぞもぞと動いていた。
「クッソ! なんやねん、あとちょっとやったのに!」
男はベッドスプレッドをはがして振袖姿の杏樹を抱え込むと、ポケットからアウトドア用のフォールディングナイフを取り出し、杏樹の顔の側に刃物を突き付ける。
「出ていけや、それ以上近づいたら、この女の可愛い顔、めたくそにしてやる!」
「きゃー! 誰かー!」
女性社員が悲鳴を上げ、ガムテープで口を塞がれた杏樹がもがく。
そこへ、足音とともに雅煕が駆けこんできた。
「杏樹?!」
「雅煕?!」
「警察、やっぱり警察呼びましょう!」
女性社員が半泣きで叫ぶ。男は杏樹の顎にナイフの先を突きつけて嘲笑った。
「え、もしかして、そのダサ眼鏡がマサヒロなん? マジで? ありえへんやん、こんな可愛い子がなんでそんなダサ――」
「汚い手で俺の杏樹にさわんな! 社会のダニの分際で!」
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