39、救出

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 雅煕は咄嗟に黒縁の眼鏡を外し、男に向かって投げつける。回転しながら飛んだそれは、素晴らしいコントロールで男の眉間を直撃した。ナイフが離れた隙に、杏樹が頭をブンッと振って、男の顎に頭突きを食らわせる。 「うがっ……!」  拘束する腕が緩み、杏樹は勢い余ってベッドから転がり落ちた。 「杏樹!」  「今だ! 取り押さえろ!」  晴久の号令でドアマンと支配人が男にとびかかり、晴久と三人がかりで押さえつける。雅煕はワゴンを押しのけてベッドの脇に転がる杏樹に駆け寄り、助け起こす。 「杏樹!」 「んんんー!」  雅煕が口に張られたガムテープをはがすと、杏樹が大きく息を吸う。 「雅煕さん……!」 「杏樹!……ごめん、遅なった! もう、大丈夫や、杏樹!」  雅煕がぎゅっと杏樹を抱きしめる。その手が後ろ手に縛られていることに気づき、雅煕の怒りが一気に沸点に到達する。 「叔父さん! そいつ殺せ! 俺の杏樹になんてこと!」  元が端麗なだけに、眼鏡を外した雅煕の怒りの形相は凄まじく、晴久がギョッとする。 「落ち着け、雅煕、犯罪はあかん! まずこいつを捕まえて、神戸の親分に連絡するさかい」
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