39、救出

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「雅煕さん、わたしは大丈夫だから……」  「大丈夫やあらへん! 血ぃ出てるやん! 待って、今、外すから……」      結束バンドを外そうとするが、なかなか上手くいかない。 「ナイフで切りましょう」  ドアマンが男が落としたナイフを拾い、それで結束バンドを切断する。杏樹の手首には痛々しい擦り傷ができ、血が滲んでいた。 「消毒して、治療しないと――」   草履とバッグを抱えた女性社員が言い、杏樹は雅煕にギュッと抱き着いた。 「雅煕さん……怖かった……」 「杏樹……」     男を取り押さえた晴久はやれやれと立ち上がると、人目もはばからずに抱き合っている二人を見て、ホッと息をつく。 「とりあえず近くの空いてる部屋で治療を。このバカはこの部屋に監禁して、こっちで始末をつける。……警察には連絡せえへんのでそのつもりで」       女性社員が「ええ?」と抗議の声を上げるが、晴久が首を振る。 「和泉家のお内儀様になる方に、おかしな傷はつけられへん。すべては内密に、和泉の家で片付けるさかい、お前らも他言すんなよ。………あ、代わりに内々に褒賞は出す」  晴久の発言に、支配人以下も頷く。
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