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「1205室が空いていますので、そちらに移動を……」
ドアマンが先導し、雅煕が杏樹を抱き上げて部屋を出る。マスターキーでドアを開け、ベッドに抱き下ろす。ついてきた女性社員が草履とバッグを近くに置き、救急箱を取りに戻るというので、雅煕が言った。
「ごめん、着付けと髪を直せる人を急遽連れてきて欲しいねん。料金の方は叔父さん経由で請求してもらったら迷惑料上乗せして支払うさかい」
「承知しました。……若様」
男に知識がなかったために、脱がされこそしていないが、着付けも乱れ、髪に至ってはかなり崩れてしまっていた。このままホテルを出るわけにはいかない。
女性社員とドアマンが出て行って二人きりになると、杏樹も冷静になってきたのか、恐怖がぶり返してきて震え始める。
「あ……わたし……雅煕さん……」
「杏樹、大丈夫、もう、怖くない。……あのバカは和泉家の力で叔父さんがなんとかしてくれる」
雅煕が杏樹の唇を塞ぎ、杏樹もそれに応える。
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