39、救出

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 杏樹は白いバッグから銀色の時計を取り出して、雅煕に渡す。 「やっぱり、ずっと借りっぱなしはよくないと思って……」     「じゃあ、とりあえず、今日は俺がつけとく」    雅煕が左腕に時計をはめるのをじっと見つめて、杏樹が言った。   「雅煕さん……わたし……雅煕さんが好き。雅煕さんじゃないと嫌。もう、御曹司とは結婚しない……!」 「杏樹、そのことなんやけどな……」 「御曹司が北川の家潰すかもしれないけど、美奈ちゃんにこんなひどい目に遭わされたし、もういいよね? マザコンでインポなのは我慢するつもりだったけど、それよりも雅煕さんじゃない人とは結婚できない」  杏樹が不安そうに見上げる目を、雅煕が困ったように見つめ返す。   「……せやな、じゃあ、俺と結婚してくれる? 着物と髪直して、俺のおじい様に挨拶しに行こ?」 「おじい様も東京にいらしてるの?」  「まあね」    雅煕が笑って、もう一度キスを交わす。――女性社員と着付け係がドアベルを鳴らすまで、キスは続いた。
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