40、美奈子の始末

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「……なんか怒られるようなこと、したんですか?」   杏樹の問いに、雅煕が眉尻を下げる。眼鏡を外した彼は素晴らしい美形なのだが、なんとなく憐れみを請うような表情である。 「……お願い。約束して。俺のこと嫌いにならんといて?」 「嫌いにはならないですよ。雅煕さんにはいつも救けられてばっかりだし……」 「ほんまに? ほんまに、嫌いにならへん? 絶対?」 「ならないですって! なんなの?」  いい加減、杏樹が痺れを切らした時、車は北川家の所有する龍園齋美術館に着いた。 「え、ここ……」 「……和泉家の御曹司って、俺のことやねん」 「……は?」  杏樹が数十秒息を止めて雅煕を見つめる。 「え、だって……和泉さんじゃないじゃん」 「母親の旧姓が和泉やねん。俺、秋におじい様の養子になって和泉家を継ぐことが決まってるさかい」  「じゃあ、ちょっと待って。実は雅煕さん、マザコンでインポなの!?」  ぶはぁッと、運転席から音がして、運転手が必死に笑いを噛み殺して肩が震えている。 「も、申し訳……」 「杏樹……そういうデリケートな話を、人前でするのはやめなさい」 「だって……」
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