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「つ、着きましたので!」
運転手が慌ててシートベルトを外して降り、後部座席のドアを開ける。
雅煕の手を借りて杏樹も車を降りる。そうして、本来、来るはずだった、見合い会場の門を見上げる。
「……お、おばあちゃま、怒ってるかな?」
「心配はしてはるやろけど……代わりにあの美奈子ってのが振袖着て来て、たぶん、そっちの方が大騒ぎになってる」
「えええ? どういうこと?」
手を繋いで門をくぐり、庭園への道を辿りながら、杏樹が雅煕を見た。
「美奈子は杏樹のものは全部欲しがるタイプなんやろうな。でも、俺がパリで会った桜井だとは気づかへんで、俺の目の前で、杏樹は桜井ってダサい眼鏡の男に逢いに行ったとか言い出しよった。いや、桜井は俺やから!って眼鏡かけたらめちゃくちゃ驚いてたわ」
杏樹がふと気づいて尋ねる。
「そう言えば……眼鏡、しなくても大丈夫なんですか?」
「ああ、あれな。無意識に投げてもうて、あの後、踏まれたかなんかで壊れてた。別に視力は悪くなくて、ブルーライト遮断用の素通しレンズやねん」
「素通しって……つまり伊達メガネってこと?」
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