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杏樹はこれまで漠然と考えていた疑問をぶつけてみることにした。
「あの……もしかしてあの……世を欺くために、わざとダサい格好してたんですか? 伊達メガネまでして?」
「ええ?」
雅煕はびっくりしたような目で、まじまじと杏樹を見た。
「……別に、世を欺くつもりなんてあらへん。ただ、京都の百万遍近辺で標準的な服装を心がけてただけやねんけど。眼鏡は、研究室のみんなしているし、学者のくせに眼鏡してへんの、恥ずかしいなって……」
「そんな理由で……」
杏樹は、庭園に向かう砂利道の途中で立ち止まり、足元を見下ろす。――汚れてしまった白足袋は、新しいのを購入して履き替えている。
「その……雅煕さんは、わたしが縁談の相手を勘違いしてるって、いつ知ったの? わたしが、最後に抱いてもらいに行ったときは――」
杏樹に上目遣いで見上げられて、雅煕が慌てて首を振る。
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