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4、大使館
タイツを履き替えてレストランに降りると、桜井が手を挙げるので杏樹が小走りに向かう。
見ればテーブルの上にはバゲットのサンドイッチとコーヒーが置いてあった。
「昼の営業はラスト・オーダーや言われたんで、先に頼んでしまった。コーヒーでよかった?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
杏樹が慌てて頷けば、桜井が言う。
「ほな、急いで食べよ。店のおねえさん、帰りたくてさっきから睨んではる」
バゲットにハムとチーズが挟まれた、何の変哲もないサンドイッチ。バゲットは好きだが、硬いし切り口が大きくて口に入れるのに苦労して、必死に咀嚼していると、先に食べ終えてしまった桜井がスマホを出して検索し始めた。
「日本大使館は――バスで二十分くらいか。でもその前に、どっかで証明写真を撮らんとあかんな。……何か身分証ある?」
「パスポートのコピーはスーツケースに入れてました。……でも、保険証も学生証もお財布の中だから……」
「全滅か……コピーがあるだけマシやな」
杏樹が食べ終わるのを待って、桜井が代金を支払い、ホテルの外に出た。
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