41、霜月の茶会

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41、霜月の茶会

 十一月のはじめ、京都嵐山の和泉家本家の庭では、恒例の秋の茶会が開かれた。  抜けるような青空に紅葉が映えて、池には落葉が散りかかる。芝生のあちこちに紅葉葉が散り落ちて、紅葉の木陰は視界すら赤く染まっていた。  今年の秋の茶会では、和泉本家の後継者として、四郎左衛門の孫、和泉雅煕のお披露目も兼ねているため、一部、経済系のマスコミも招待されている。  といっても、大々的に「これが次代の四郎左衛門です」と発表するわけでもなく、茶室に招かれる重要な客にはその場に同席して挨拶を、他は適宜に野点の会場などを回って頭を下げるくらいである。  和泉家の秋の茶会で後継者がお披露目され、かつ、次代の四郎左衛門がまだ二十代の独身男性だと、密かに噂になっていた。そのせいか、普段よりも若い女性の割合が多く、会場にはとりどりの振袖の花が咲いて、ずいぶんと華やいでいた。  会場の様子を眺め、雅煕の兄・桜井幸煕が、眉を顰める。 「春ン時と全然、ちゃうやん。露骨に増えすぎや」 「本当! 春は、お振袖なんてあたしと、あと一人くらいだったのに!」
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