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相槌を打つのは、六月に結婚式を挙げたばかりの幸煕の新妻、文緒である。
「見て! あのギラギラした目!……雅くんがヘンな眼鏡で擬態してたの、わかるわー」
「結婚が決まるまではあいつを表に出さへんかったのも、納得やな」
経済界の重鎮に挨拶をしていた雅煕が、一人の振袖を着た令嬢に近づく。白っぽい地に御所車と、赤や黒の絞りの流水紋を配した古典柄の振袖に、黒地に金の亀甲紋の帯、結った髪に赤いつまみ細工の簪を挿した女性に話しかけ、その手を取って雅煕が兄を見た。
「ああ、あの子や! あれが杏樹ちゃん! こっち来るで!」
今日の主役とも言うべき御曹司が、一人の令嬢の手を取れば、当然ながら満座の注目を浴びてしまう。だが雅煕も振袖の令嬢も気にすることなく、微笑みを交わしながら、手を繋いで幸煕たちのところにやってきた。
「兄ちゃん、文緒さん、今さらやけど紹介するわ。……北川杏樹、僕の婚約者です。杏樹、これが兄貴の幸煕と、兄嫁の文緒さんや」
「は、初めまして!」
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