41、霜月の茶会

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 杏樹が頭を下げる。――幸煕は雅煕の唯一の兄であるが、和泉家御曹司の嫁とりに関与が許されておらず、会うのはこれが初めてとなる。 「幸煕です、これが妻の文緒。プロのバイオリニストなんです」 「初めまして」  にこやかに挨拶され、杏樹が心の中で、(ストラディヴァリウスで口説かれた人か……)と思い出す。 「わたしもずっと海外にいたりして、実は雅くんと会うのも本当に久しぶりなんですよ。わたしたちの結婚式以来かな?」 「まあ、僕もバタバタしてたさかい。ご無沙汰しております」  あえて畏まって頭を下げる雅煕の姿は、眼鏡をしていないのもあり、惚れ惚れするほど格好がよかった。――私服の壊滅的なダサさを知らない令嬢たちは、雅煕が手を繋いで杏樹を連れ歩き、兄夫婦に紹介する様子に羨望の眼差しを送る。どうやら、御曹司にはすでに交際中の女性がいるらしい、と。   「そうそう、雅くんは博士号取ったんだって?」       文緒が尋ね、幸煕が頷く。 「せやせや。1200年前のゴミクズ文書の研究で文学博士」     雅煕がのんびりと付け加える。
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