41、霜月の茶会

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 幸煕もうんうんと頷く。そんな話をしていると、「おーい、幸!」と背後から声がかかる。  振り返れば晴久がパリッとした三つ揃いのスーツのポケットに片手を突っ込み、もう片方と手を優雅に上げて歩いてくる。  姿だけ見ればものすごくカッコイイ、エリート然とした三人の男たちが、ひたすら漫才を繰り広げる異様な光景に、杏樹は圧倒されていた。 「さっき借りた小銭、今返すわ」 「ええのに、そんくらいのはした金」 「アホ言え。一円を笑う者は一円に泣くんや」  晴久が内ポケットから取り出した財布は、ピンクの折り紙で折ったもの!  (出た! 最安値を競う、家訓の財布!)  じっと見つめる杏樹の視線に気づいた晴久が、ニヤッと笑った。 「これな、すごいやろ、娘の紗英ちゃんが幼稚園で作ってくれてんで。んもーパパ大好きって!」 「もーわかったから、はいはい」    ウンザリした様子で、ピンクの折紙の財布から小銭を徴収した幸煕が、今度は上着の内ポケットから鮮やかな黄色とブルーのツートンカラーのフェルト財布を取り出す。 「うわ、兄ちゃん、新しなってるやん」
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