41、霜月の茶会

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「せや、文緒に財布がみすぼらしい叱られたから、涙を呑んで新調したんや。百均のフェルト買うて、俺の手製や」 「兄ちゃん、それ、百均で財布買うた方が安ない?」 「せやせや。やっぱり安い上に娘の愛情が籠った俺の財布が優勝や」   その情景を眺める文緒の冷めた目を見て、この家に嫁ぐのは大変そうだなと杏樹は改めて思った。    会場中を手を繋いで挨拶回りしたせいで、和泉家の御曹司が女優・喜多川マリの娘と婚約したというニュースは、その夜にもネット記事に上がるだろう。  なんの相談もせずに決めたから、母からはどういうことかと詰問されるに違いないし、ひとしきりマスコミを騒がすことになるだろう。  もっとも、和泉家の力はマスコミにも及んでいるし、当主の四郎左衛門が認めた以上、御曹司の婚約者が喜多川マリの娘でも問題にもならない、らしい。    「ほんとうに、わたしでやっていけるのかな?」       茶会の喧騒を離れ、庭の人気のない場所に二人で逃げ出して、杏樹が色づいた紅葉の樹々を眺めて呟けば、雅煕が眉尻を下げて笑った。
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