41、霜月の茶会

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 和泉家の当主とは、見えない鳥籠に囚われるような人生だと言った、祖母の言葉を杏樹はふと、思い出す。    「でも、雅煕さんには研究があるじゃない。1200年前の――」 「ああ、あれ、要するにゴミやで? 昔の人がゴミやから洞窟の奥に積んどいたやつや。それをヨーロッパ人が見つけて持ち帰って、博物館で宝物みたいに大事にしてるだけ。冷静に考えたら滑稽やな」  自嘲的な雅煕の言葉に、杏樹が首を振る。    「ゴミが千年経って宝物になるなんて素敵じゃない」 「ものは言いようやな……杏樹?」  杏樹が肩に手を伸ばして縋り、つま先立ちになって唇に唇を寄せる。杏樹から口付けられて、雅煕が一瞬、目を見開いて動きを止める。だが、すぐにそのうなじを大きな手で支えて口づけを深め、腰に手を回――そうとして、高い位置で結ばれた帯が邪魔で、少し戸惑った挙句に帯の下に腕を回す。       一陣の風が吹いて紅葉の葉が散り乱れる中、杏樹の振袖の長い袂がひらりと揺れる。 「……びっくりした。杏樹からキスしてくれたの、初めてやない?」 「だって、いじけたことばっかり言ってるから。……慰めるのがわたしのお仕事なんでしょ?」
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