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「22番のバスで、ここで降りる。パスポートが一日ではでけへんかった時、また取りにこなあかん。いつもいつも僕がついてこれるとは限らへんさかい、自分でもよう覚えとき」
「そ、そうですね!……22番で、オッシューサントノーレの停留所で降りる……と」
「大使館はさっきの道沿いにあるから、少し戻って歩く」
「はい!」
まるで先生に引率された小学生のよう……と思いつつも、一人だったら絶対に来られなかったと実感して、桜井のバックパックを背負った背中を必死に追いかける。後ろ姿も安定のダサさなのだが、とにかく脚が長くてリーチが違い過ぎ、杏樹はほとんど小走りになってしまう。杏樹が息を切らしているのに気付き、桜井が足を止めた。
「あ……速すぎた? ごめん、女の子と歩くなんてめったにないさかい、つい……」
「だ、だいじょうぶ、です……おわっと」
と言うそばから、路面のわずかな段差につまずいて杏樹がよろめき、桜井がとっさに支えた。
数秒、至近距離で見つめ合ってから、慌てて二人、距離を取る。
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