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さっき、受付の女性に彼女なら一緒に泊まればいいと言われたことを思い出して、なんとなく意識してしまい、顔が火照ってくる。
服装はダサいけど、フランス語はペラペラだし、大学の先生目指してるし、つまり桜井はそこそこエリートだ。何より、警察署でもすごく頼りになったし、有能だし、服装がダサい以外はけっこうかっこいいんじゃないの。――まあ、服装はダサいんだけど。
ただし、桜井の方は女性と縁のないタイプなのか、杏樹との距離の取り方を測りかねている風がある。桜井がゴホン、と咳払いして言った。
「……それにしても危なっかしいな君は。日本でもそんなんなん?」
「そんなことは……」
杏樹が上目遣いに見上げれば、桜井は困ったように太い眼鏡のつるを人差し指で上げた。
「……その表情は破壊力があり過ぎるな……わざとやってんのか」
「え?」
「なんでもない……ほら、日の丸翻ってる!」
「わあ!」
金のプレートに書かれた漢字にさえ、懐かしい気分になる。――ちょっとわたし、いくら何でも初対面の人に甘え過ぎよね? 杏樹は桜井をちらりと見て、決意を固めて言った。
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