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「ここまでありがとうございます! 頑張って一人で行ってきます!」
大使館の入り口でおどけて敬礼のポーズを取れば、桜井は少し驚いて、眼鏡の奥の目をみはった。
「一人で大丈夫?」
「こ、これくらいは、一人でしないと……日本大使館だから、日本語通じますよね? わたしだって、もう成人だし、さっきから甘え過ぎだと思うんです。申し訳なくて……」
「じゃあ僕はその辺で待ってるから……」
そうして一人で出かけていった杏樹だが――
「戸籍謄本が必要? んなアホな!」
窓口の職員に杓子定規の対応をされ、取り付く島もなくて意気消沈して戻って来た杏樹に、桜井が叫んだ。
「日本から送ってもらってくださいって……」
「そんなん一週間くらいかかってまうやん! それ、おかしいって。盗難の場合は何とかしてくれるはず――」
桜井は腕時計を見てしばらく考えてから、スマホを取り出してどこかにかけはじめた。数回コールして、相手が出る。
『はい』
「もしもし、にいちゃん? 俺、雅煕だけど、今大丈夫?」
どうやら相手は日本にいるらしい。向こうの声が大きいので、会話が丸聞こえである。
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