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桜井は困ったように眼鏡のブリッジを人差し指でクイと上げる。
「まあその――容姿で差別するのはあかんと思うが、これは放っといたらあかんやろと。下手すると売り飛ばされてしまうわ」
「売り飛ばされるってことは、ないんじゃ――」
「甘い。三杯酢の心太や思うて喰うたら、黒蜜かかってた時くらい、甘いな」
「意味がわかりません」
杏樹は桜井の言葉に困惑したが、たしかに、外国で一人旅をする覚悟が足りなかったと言われれば、その通りだ。
健司の家に行き、健司にあえば全部解決すると思っていた。ひったくりに遭ったのも、杏樹の認識の甘さのせいだ。
「本当に、どうお礼をしていいのか。なにか差し上げるにも、お金も取られちゃったし――」
ぐずぐずと言う杏樹に桜井がふっと笑う。
「ほんまもう、ええってそれは。災難に遭って困っている人を助けて、何か見返りを期待するか? せえへんやろ」
「……そうですけど、わたしの気がすまないっていうか――」
「しつこいな、君も。そこまで言うんやったら、身体で返してくれる?」
「え!」
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