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桜井の発言に杏樹がぎょっと息を飲み、桜井も失言に気づいて、慌てて取り消した。
「いやその、冗談! 冗談やから! 本気にせんで」
杏樹がしばらく言葉を失っていた時に、ちょうど22番のバスが来た。
プシュー、と扉が開き、一瞬、ためらってから乗り込む。目の前で二人掛けの席が空いて、桜井は杏樹を促して座らせる。
「桜井さんも、座ってください」
「うん――」
気まずく並んで腰を下ろしてから、桜井がもう一度頭を下げた。
「ほんまごめん。冗談や。……いや、冗談でも言うべきやなかった。こんなセクハラ発言、申し訳ない。忘れて。――若い女性と話すのに慣れてへんさかい、どこまでの冗談が許されるのか、わかってなくて――」
「いえ、……大丈夫です。わたし、わりと図太いから。気にしていないです。桜井さん、そんな人じゃないってわかってるし」
しばらく無言でバスに揺られて、桜井が突然、問いかける。
「その――今日はもともと、知り合いのとこ泊まるつもりやったって――」
「そうです」
朝の、健司と美奈子のようすを思い出し、杏樹が眉を顰める。
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