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「それは――彼氏とは違うの?」
「これから彼氏、になるのかなって――思ってたんだけど」
「そうなんや……でも、他の女がいた」
杏樹は意を決して言った。
「イトコだったんです」
「イトコ?」
「なぜか、イトコがいて。スペインに行くって言ってたのに、なぜかパリにいるなんて、おかしいですよね? しかも、健司には、わたしは来ないってウソついたんです。健司もアッサリ騙されてちゃって――」
杏樹の説明に、桜井は首を傾げる。
「そのイトコの無駄な行動力も、アッサリ騙される男の思考回路も、僕には理解不能や」
「美奈ちゃんはわたしのことがとにかく大っ嫌いだから――」
バスは凱旋門を周回するロータリーのところで、帰宅ラッシュの渋滞に巻き込まれてしまう。放射状になった道路からそれぞれ車が流入するのである。混まないわけがなかった。遅々として進まないバスの中で、桜井が言う。
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