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「僕が思うに、彼氏は騙されただけやと思うで。一度、戻って話し合わへんくていいんか?」
「いいえ、もう、あり得ないです! 正直に言って、二度と顔も見たくないし。……そもそも、彼氏じゃありません! パスポート盗られてなかったら、まっすぐ空港にUターンして日本に帰ってたかもしれない」
「そこまで言う」
桜井が苦笑し、しばらく前方をじっと見つめて何か考えていた。
「せやったら、彼氏の部屋に帰ることはありえへん――」
「だからあんな奴、彼氏じゃないって!」
桜井がスマホを取り出し、地図を呼び出す。
「――ここが僕のホテルで、ここから割に近いところと言うと――」
杏樹のホテルを探しているのだと気づき、杏樹はハッとする。――そっか、あのホテルは満室だって言ってたから――
ふいに、杏樹は「彼女なら一緒に泊まればいい」と言ったらしい、レセプションの女性の意味深な微笑みを思い出す。
別のホテルに泊まったら、なんとなくだが、それで終わりの気がする。お金を借りて、住所を聞いて、帰国後にお金を返して――
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