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大人が子供を諭すように窘められて、杏樹が不満そうに唇を尖らせると、それを見た桜井が、いっそう、顔を引きつらせる。
「君は! またそういう顔を!」
「でも~」
桜井は眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げ、早口で言う。
「とにかく、この話はいったんやめや! バスん中でする話やない」
ようやく凱旋門の周囲のロータリーを抜け、バスが直線ルートに入って道が流れ始めた。
バスを降りて、桜井が時計を確認する。
「――六時か。いい時間になってもうたな」
「お腹すきました!」
「……せやな、先に飯にするか……」
桜井がスマホを出して地図を検索する。
「インド料理、モロッコ料理、日本料理――」
「わたし、パリに来てからマックとサンドイッチしか食べてないんです。お金出してもらう分際で言いにくいですが、フランスっぽいものが食べたいです!」
「……せやな」
桜井がスマホの画面を睨み、すぐ目の前の店を指さす。
「ここ、あの店やな。エスカルゴとフレンチオニオンスープが美味いらしい」
「よくわからないけど、お腹空いたので、入っちゃいましょうよ」
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