prologue

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 マスタードイエローのダッフルコートから伸びる脚の、厚地の黒タイツが破れ、両膝を痛々しくすりむいて血が滲んでいた。  血塗れの膝を見下ろし、ショックで頭が働かない杏樹のために、男はすばやくポケットからティッシュを差し出した。 「……とりあえず、これ。……しまったな、バンドエイドは宿に置いてきてしもた」 「あ、は、はい……ありがとうございます……絆創膏(ばんそうこう)ならわたしも持ってる……」  と無意識に手で探って、バッグを盗られたことを思い出す。   「バッグがない!……財布も、スマホも、パスポートも全部……ええ! どうしよう?!」  杏樹はようやく事態の深刻さに気付き、すうっと血の気をが引いていく。 「そら、ひったくりに遭ったわけやからな……。まず、けがは膝だけ? 捻ったりはしてへんか? 病院か、警察か、どっちから行く?」 「け、けいさつ……」  異国の地で全財産を奪われた北川杏樹、二十歳。人生最大のピンチに目の前に現れたのは、黒縁眼鏡の超絶にダサい男だった――
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