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「そうだ! その時計、おじいちゃまのと同じなんだ! どこかで見たって思って……」
「時計?」
桜井が左腕の時計を撫でる。
「スイスの時計やから、フランス人のおじいちゃんが持ってて不思議はないかも。僕もこれは祖父にもろてん。大学入学のお祝いに」
「へえ! 八角形が珍しいなって思って!」
「僕が今身に着けている中で、文句なく一番高いのはこれや」
そんな話をしていると、ウェイターがワインとエスカルゴを運んでくる。
「うわー、カタツムリだ!」
「この汁にパンをつけて食うと美味い。……じゃあ、カンパーイ!」
「カンパーイ!」
チンとグラスをぶつけて、杏樹は冷えた白を口に含む。
「ん~! 美味し! 喉渇いてた!」
「ハウスワインの割にまあまあやな」
そしてエスカルゴの身をフォークで繰り出しながら、杏樹が尋ねる。
「桜井さんは大阪の人?」
「もとは西宮――甲子園球場のあるところです」
「じゃあ、大阪?」
「あんな、東京の人はなんか誤解したはるけど、これだけは間違ってもらっては困る! 甲子園球場の所在地は兵庫県や! 大阪ちゃう!」
「兵庫県……」
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