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「兵庫県の県庁所在地は神戸市や」
神戸と言われてもステーキの美味しいところだな、くらいしかわからない杏樹である。
「でも今は京都に住んでる。大学が京都やさかい」
「もしかして――」
「ああ、そうや、名刺を渡すってゆうてたな」
桜井が胸ポケットから名刺入れを出し、一枚杏樹に渡す。
『日本学術振興会特別研究員(DC2) 桜井雅煕』
下には、桜井の所属する研究室と、メールアドレスが。
「なんかすごそう!」
「一応、国からお金もらってるから。……年収240万。この三月までやけど」
「……四月からは……」
「……無職。……ポスドクの申請に落ちたから」
皿に残った汁にパンを浸して齧りながら桜井が言い、杏樹は桜井に顔を近づけて尋ねた。
「彼女とかは、いないんですか?」
「いそうに見える?」
杏樹が首を振ると、「君は正直すぎや」と苦笑した。
「じゃあ、わたしの処女をもらってもらっても――」
「まだ言ってんの! いい加減、本気にしてまうやろ!」
「わたしは本気です!……それとも、わたしの処女では、お礼になりませんか?」
「そういうことやないって!」
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