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桜井はグラスのワインをグビグビっと一気に飲み干し、近くのウエイターを呼び、お替りを注文する。
フレンチ・オニオン・スープが来て、エスカルゴの皿が下げられる。
「さっきも言うたけど、お礼に差し出すもんちゃうやろ。僕はそんなつもりで助けたわけやないから」
桜井がスープをスプーンで口に含み、「熱っ!」と口を押える。杏樹はその様子を見ながら、言葉を考え考え口にした。
「ずっと、健司のことが好きで、パリに来いよって言われて、すごく浮かれてたの。……初めても、健司にあげるつもりで……でも、なんか――幻滅しちゃって」
「まあその……男なんていい加減なもんやから……」
「でも――桜井さんに救けてもらって、命の恩人だと思うし、でも桜井さん、フランス語もペラペラのエリートだから、わたしみたいなおバカ女子大生じゃあ、ダメかな?」
ワイングラスを両手で持って、そっと上目遣いで見れば、桜井の喉ぼとけがゴクリと動いた。
「そ、そ、そうではなくて――その、俺も――実は童貞やから、無理って言うか――」
「ええー? マジ? 童貞なの? その年で? マジうけるー!」
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