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だが桜井もまんざらではないのか、杏樹がついてくるのを止めない。
「五時にEFEO(フランス極東学院)の前で待ち合わせる? なら、場所を確認していく?」
「そうします! 若いから、歩くのは平気!」
並んで歩きだしてから、桜井が思い出して言った。
「そう言えば、さっき警察から電話があったわ」
「え、なんて?」
「見つからへんかったって。スマホも財布も。――犯人も」
「あ……」
覚悟はしていたが、はっきり言われれば、がっかりしてため息をついてしまう。
「スマホにはロックをかけてあるから、悪用はでけへんはずやけど。取り戻すのは諦めるしかなさそう」
「そうですか……」
桜井が、意気消沈している杏樹を慰めるように言った。
「今日はちょっといい店で、ええもん食べよ。――僕も今日の発表が終われば、ちょっと肩の荷がおりんねん」
杏樹がガバっと顔をあげ、満面の笑顔で桜井を見た。
「やった! 文無しの分際で言うべきじゃないですが、フォアグラかトリュフかキャビアが食べたいです! できれば全部!」
「君なあ……」
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