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再発行されたパスポートを受け取り、日付を見て杏樹はアッと思う。
「今日、バレンタインじゃん……」
健司に渡そうと選びに選んだチョコ、まだ、スーツケースの奥に入ったままだ。
「……桜井さんにあげようか。それくらいしか、上げられるものがないし――」
パスポートを大事に大事にバッグの奥にしまって、杏樹は呟く。
五時にEFEOの前で約束だから、時間はたっぷりある。お金は桜井に借りたもので、無駄遣いするわけにいかない。
「せっかくパリに来たんだし……凱旋門でも見て行くか」
日本大使館からエトワール凱旋門まで、のんびりと歩いても十五分程度。バスからは何度も見たけれど、真下に降り立てばやはり迫力が違う。見事な彫刻を見上げながら歩いていると、足元の石畳に躓いて転びそうになる。
チケットを買って内部の螺旋階段を上り、凱旋門の上に出る。
「すごい、三百六十度ビュー!」
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