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「ええ、そうね、美奈ちゃんのおかげで目が醒めたわ。すぐに騙されるバカ男って気づけて、今は感謝してる」
にっこり笑ってやると、健司が傷ついたような表情で言った。
「杏樹……俺は昔から杏樹が好きで……」
「その割にはあっさり美奈ちゃんと寝たんでしょ? もう、美奈ちゃんでいいじゃない。わたしは身を引くわよ。二人でどうぞ、お幸せに!」
「杏樹、美奈ちゃんとはそんな仲じゃないよ!」
「わたしもう、行くから!」
関わり合いになりたくなくて踵を返したところで、健司に腕を掴まれる。
「離してって!」
「杏樹、待てよ!」
「……ねえ、杏樹。あんた、そんなバッグ持ってた?」
美奈子がめざとく、斜めがけにした男物のメッセンジャーバッグに目をつける。――昔っから、美奈子は対抗心なのか何なのか、杏樹の持ち物チェックに余念がなくて、鬱陶しくてたまらなかった。
「どうだっていいでしょ! 放っておいてよ!」
揉み合ううちにダッフルコートの袖がめくれ、桜井に借りた時計がずり落ちて健司の目に触れる。健司がぎょっとして手を離した。
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