8、もう好きじゃない男

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「ええ! その時計! ちょ、なんでそんな時計持ってるの、杏樹? それ、スイスの――」      健司曰く、世界三大高級時計メーカーだとか。へえ、そうなんだと思いつつも、時計を庇うように握り締めて、健司と美奈子を睨みつける。 「借りたの! 健司から電話かかってきたらうざいからスマホ切ってるの!」 「借りるって、そんな高い時計を? それ一個の値段で家が建つよ! そんなのポンと貸してくれるなんて、どこの成金だよ! 杏樹、なんかヤバいオッサンに捕まってるんじゃないの?」 「まさか! 失礼な! オッサンじゃありませんー!」       思わず漏らした本音に、健司が驚く。   「え! 本当に誰かの世話になってるの!? 杏樹? そいつ、大丈夫なの? ちゃんとした奴なの?」  「ほっといて! 健司よりもうんとまともで誠実な人だもん! 健司みたいな浮気者は大っ嫌い! イーッ」 「杏樹!」    健司に向かって子供っぽい悪態をつき、杏樹は石畳を走り出す。  ――どんな理由があったとしても、約束していた女が来ないからって、別の女と寝ちゃうクズはお断りよ! 
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