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1、最悪のバレンタイン
ずっと片想いしていた幼馴染に逢うために、杏樹は二月のパリにやってきた。
小野木健司は、海外ブランドも取り扱う国内大手アパレル企業の御曹司だけあって、子供のころからおしゃれでセンスがよかった。優しくてかっこいい健司に、四つも年下の杏樹が面と向かって想いを告げる勇気はなくて、ずっと妹ポジションに甘んじていた。ところが、健司がパリに留学して、チャットで会話する機会が増え、距離が縮まった。
『杏樹は春休み、海外とか行かないの?』
『行きたーい! というかパリに行きたい!』
『それって、俺に会いたいってこと? もしかして俺のこと好き?』
『え、好き好き! すごい会いたい!』
ベッドに寝転がって、ポチポチとスマホを打ち込んでいて、ついつい本心を吐露してしまい、どうしようとドキドキする杏樹の目に、健司から返信が飛び込んできた。
『じゃあ、会いに来いよ。俺も会いたい』
思わずベッドの上に起き上がり、スマホの画面を凝視する。たっぷり二十秒は固まっていると、健司から続いてピコンと着信が入る。
『え、黙っちゃった? もしかして嘘だった?』
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