9、フランス極東学院

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9、フランス極東学院

 約束の時間が近づき、杏樹は時計を気にしながらEFEO(フランス極東学院)の前に急いだ。冬のパリは日暮れが早く、すでに陽が落ちてあたりは薄暗く、街灯やショーウィンドウが光を放っていた。  舗道の街路樹の下に立って待っていると、コートにスーツ、ブリーフケースを持った男性や、色鮮やかなコートを着たインテリ風の女性、ややカジュアルなジャケットにバックパックの学生風の男女が、地味な入口から出て来ては、立ち話をしたり喋りながらどこかに向かったりしはじめた。東洋学の学会だからか、東洋系の参加者が多い。    やがて、暗色のスーツとコートを着た四、五人の東洋人の集団がわらわらと出て来て、互いにペコペコ頭を下げている。杏樹にも日本人だとすぐにわかった。遅れて出てきた一際背の高い黒縁眼鏡の青年が、遠目にも綺麗な所作で一礼して、すっと視線を動かして杏樹を見つけ、軽く手を挙げる。杏樹も反射的に手を振りかけて、だが周囲の目を気にして胸のあたりで両手を握り込んだ。
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