9、フランス極東学院

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「えらい、若いな。高校生ちゃうやろな? 犯罪やで」 「だ、大学生です!」  杏樹が慌てて言って、ぺこりと頭を下げる。 「そうか、女子大生かー、どこで知り合ってん、こんな可愛い子と。お前も隅に置けんな」 「はあ、まあ……」    まさか昨日が初対面ですとは言えず、杏樹は視線を泳がせる。飯塚は今日の発表についていくつか講評を述べると、バン、と桜井の背中を叩いて、「ほな、明日また」と背を向ける。        「はい。先生もお気をつけて」    と、去っていく飯塚に頭を下げて見送って、桜井がホッと息をつく。 「……ごめんな、彼女ってことにしてもうたわ。彼女やないって言うと余計に面倒くさいことになりそうやったさかい」 「それは、大丈夫ですけど、皆さんとご一緒しなくてもいいんですか?」 「なんで? 別にええよ。日本で死ぬほど会うし。ほな行こか」     と桜井が杏樹の背中を押して歩きだそうとした時、また別の男の声がかかる。 「桜井! お前、どこ行くんだよ!」    振りかえれば、スーツの上に小汚いジャンバーを羽織った小太り眼鏡の男が、怒りの形相で桜井にくってかかる。
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