9、フランス極東学院

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「長野さん、僕は連れがいるんで失礼します」 「連れ……ってどういうことだよ。彼女!? お前、彼女連れで学会? 何考えてんだよ。昨日だって勝手にサボって――」      長野と呼ばれた男は、杏樹を頭のてっぺんからつま先まで、眼鏡の奥の小さな目を凝らしてジロジロ見た。杏樹は男の不躾な視線に恐怖すら感じて思わず後ずさり、桜井のコートをギュッと掴む。  男のスーツは量販店で買ったのか、薄くてヨレヨレで、足元は合皮のスニーカー。 (うわっ……これは、私服の桜井さんよりさらにダサい! スーツ着たら誰でもかっこよくなるわけじゃないんだ!) 「別にいいでしょう。何か問題が?」 「だって、シュタインドルフ教授や彼の学生たちも一緒にいくんだぜ? お前がいないと――」 「シュタインドルフ教授とはさっきお話できたし、僕はもう、ええですよ。長野さんだけどうぞ。……彼ら、フランス語だけでなく、英語も中国語もできますから大丈夫ですよ」 「なっ……!」 「ほな」
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