9、フランス極東学院

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「学会は一昨日から始まってん。で、一昨日一日、通訳代わりに使い倒されて、僕のライフがゼロになったんで、昨日は学会サボったんよ。――仏教経典のゴリゴリの教義のお話やったから、聞いててもチンプンカンプンやろなってのもあったけど。そしたらもー、今日は朝から、昨日なんで来なかったって、うるっさいうるさい。あいつ、語学音痴やから、俺以外に喋る相手おらへんねん。うっとうしいから、がパリまで来てるから、お前の相手なんてしてるヒマないってゆうたったわ。あー、せいせいした!……ってごめんな、知らん人の愚痴言われても困るよな」 「ううん……別に、それは大丈夫だけど……」  桜井が昨日、一日、杏樹に付き合う暇があった理由が、あの男だったとは。   「でも、わたしもずっと通訳させちゃった。よく考えたら、英語だったらちょっとは喋れるから、頑張ればよかったのに、全部たよりきってしまいました。ごめんなさい」     杏樹があやまれば、桜井は笑って首を振った。 「困ってる人を助けるのは家訓だから。……まあ長野さんも困ってはるけど、感謝の気持ちのない人を助けるほど、僕も人間はできてへんので」
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