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それから、杏樹の顔を覗き込むようにして続ける。
「まあ僕も、彼女って嘘言って言い訳に使い倒したし、お互い様や。お礼に今日はええもん食べよ。……なんやしらん、どこも予約いっぱいで、断られまくったけど、日本人シェフのやってる店がキャンセル出たからって……」
プレジダン・ウィルソン通りを進み、イエナ広場に至る。夜だと言うのに交通量が多く、クラクションに驚いた杏樹が思わず桜井にしがみついた。
「車が多いな、気いつけて」
「は、はい……」
そのままごく自然に手を握られて、杏樹の心臓が跳ねる。でも、おそらく桜井は保護者感覚なんだろうと思い直し、素直に手を引かれていく。五差路の真ん中に台座があり、騎馬の人物像がライトアップされていた。杏樹が指さす。
「あの人誰ですか?」
「あの人?……ああ、あの銅像は、たしかジョージ・ワシントンや」
「誰? 有名人?」
「え、ワシントンを知らんとかありえへんやろ。アメリカの初代大統領や。君ちょっといろいろ心配になるな」
「……なんでアメリカの大統領の像がパリに?」
「そこまでは俺も知らんがな」
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