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桜井の手は大きく、なめらかで少し骨ばっていた。クラクションと車のライト、広場のライトアップの光が乱れ飛ぶ中、杏樹は無意識にその手をギュッと握り返していた。
「……大丈夫? もしかして、寒い?」
「う……少し? もうちょっとくっついてもいいですか?」
杏樹は桜井の返事も待たずにその腕に自分の腕を絡ませて身体を密着させた。その位置から桜井を見上げれば、ネクタイを結んだ首元の少し上、喉ぼとけがゴクリと動くのが見えた。
「あの、杏樹、当たってるんですけど……」
「え? 何が?」
「素知らぬ顔で僕の理性試してるやろ?」
「……? 桜井さん、僕って言ったり俺っていったりしますね?」
「よそ行きの時は僕で、気を抜くと俺になるかな。今、すごく気を抜けない状態なんで、僕でいかしてもらいますわ」
桜井の発言の意味がわからず、杏樹は首を傾げ、いっそうその腕を抱き込んだ。
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